石川九楊 著
漢字がつくった東アジア
(2007年4月25日 初版第1刷発行)
主題・主語は「東アジア」であって、趣味的な軽いノリで「漢字」の部分に期待するとちょっと外れる。
あとがきには「「漢語がつくった」という方が正確」ともあり、だったら最初から「漢語が…」にしといてくれよ、と。
早い話が、東アジア史の本。
で、まあ何と言うか、巨視的と言うのか、スケールの大きい話で、なるほどと思う部分も多い。
古代中国(というか、漢字・漢語)の影響力は大きかったんだなぁと改めて思わせるが、そう思えば思うほど、今の中国はどうしようもねぇな、とも思わざるを得ない。
別の方向での影響力は今も大きいけれどもねぇ。
著者は書家とのことなので、楷書や草書がどうこうという話も多く、その辺は専門家向けかなとも思うが、
▼(P36)
書の歴史は、楷書→行書→草書と動いてきたのではなく、隷書と同時期に初期の草書が生まれ、そして草書が行書化し、さらに楷書化していきます。
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この話は意外だった。
そーなのか。
それはいいのだが、しかし…
序章の段階から怪しさはあった。
北朝鮮による拉致問題は騒ぎすぎだ、とか。
で、特に第5章以降。
読んでいてクラッとした。
漢字の話なんかそっちのけで、朝鮮はこんなにひどい目に遭った、日本は悪い、強制連行がどうの従軍慰安婦がどうの創氏改名がどうの…
はぁ、そういう認識の人であり、そういうことを書いた本でしたか。
他にも、憲法9条はすばらしい、死刑は怪しからん、米軍は沖縄から出て行けとか、なんつーかもう典型的。
▼(P138)
北朝鮮ではなく共和国といった方が本当はいい
(中略)
南を韓国というのであれば、北はやはり共和国と表記しなければおかしい
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大韓民国→韓国、ならば、朝鮮民主主義人民共和国は「朝鮮国」なんじゃないのか?
「朝鮮共和国」でもいいが。
すぐ隣の中国をはじめ「ナントカ共和国」が沢山ある中で、単なる「共和国」がすなわちイコール北朝鮮という感覚は、朝鮮人のものでしかあり得ないだろう。
やっぱそういうことなのかなー。
この人、生まれ育ちは日本みたいだけどさ。
朝鮮とは直接関係無いはずのベトナムについての章で「日本海(東海)」なぁんて書いちゃってるし。(P180,182)
あと、これ↓とか。
▼(P163)
北朝鮮の脅威など何もないと思います。たとえばミサイル云々という話をしていますが、北朝鮮がミサイル発射の実験をするとすれば、これは大陸に撃ち込むわけにはいかないのですから、日本海に撃つか、もうちょっと延びれば日本を越えて太平洋へ向けて撃つということにしかそれはならないのです。
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やっぱりねーって感じ。
あと、これ↓とかちょっとどーなの。
▼(P164)
(9.11、WTCのテロについて)これはまぎれもなく、突入した飛行機の側に責任がある。しかし、そのビルがその後自己崩壊を遂げた。この自己崩壊は二次的に起こったもので、問題はその建物の構造にあった。したがって、死んだ人の5分の4の責任はビルを設計した建築家、あるいはそのビルの建設を許したニューヨーク市当局にあるというのが私の考え方です。
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いや、実際のところあの建物の構造がどうなのか知らないけど、あんただって建築についてそんなに詳しいとは思えないんだけどさ、5分の4の責任ってのもどういう計算なんだか、テロリストには5分の1の責任しか無いと?
なんか色々ホントにもう勘弁してください。
そんなこんなで、一般向けの本とはとても言えない。
いいことも書いているのだが、それが霞むほどの妨害電波。
東アジア史・書道史に興味があり、かつ、強力なノイズフィルターを完備しているかたのみ、まあヒマがあればどうぞ。
自分のフィルターでは少々性能不足でした ^^;